横浜みなとみらいホール第2代ホールオルガニスト 近藤 岳さんに聞きました。
2022年11月10日 (木)
リニューアル・オープンを迎え、早速、10月29日公演ではR. シュトラウス《アルプス交響曲》、11月3日公演ではサン゠サーンスの「オルガン付き」で、オーケストラと一体となった見事な演奏を繰り広げています。
この度、11月25日の就任記念リサイタルに向けて、お話をうかがいました。

Q 就任から半年が経ちました。横浜みなとみらいホールのホールオルガニストとしての仕事はいかがですか?
近藤:新たな、とても前向きな気持ちで取り組んでいます。横浜みなとみらいホールのスタッフと一緒に働いていると、自ずと仕事がしたくなり、自分ができることは何だろう? とエネルギーが湧いてきます。
Q 近藤さんにはオーバーホール中に進捗確認をいただいたり、オーバーホール終了後はメンテナンスをしていただいたりしてきました。久しぶりの“Lucy(ルーシー)”との再会、最初の印象はいかがでしたか?
(*カプラー:鍵盤同士を連結させる機能。オルガンの各鍵盤に割り振られているパイプ群を、他の鍵盤でも奏でることができます。例えば、Ⅲ-Ⅱのカプラーは、第3鍵盤で選択されたストップを第2鍵盤で演奏できるようにします。この機能を使うことで、より多彩な音色を生み出すことが可能となります。ただし、楽器によってはカプラーを使用することによって、鍵盤が重くなることもあります。)

Q 今回の就任記念リサイタルには、ルーシーの魅力を一番発揮しやすいフランスのシンフォニック・オルガンの作品を集めてプログラムを組んでくださいました。近藤さんにとって、フランスの音楽は、これまでの音楽人生に大きな影響を及ぼしているのでは、とお見受けしていますが、いかがですか?
近藤:もともと、フランスの色彩豊かな響きに惹かれて、そこからパイプオルガンに導かれたように感じています。実は、ジャズやフュージョンが好きな少年だったんです。そういうクラシックでないところのエッセンスとクラシックをたどっていった先のラヴェルやドビュッシーなどに、ルーツは違えど響きの共通性があり、どちらにも非常に影響を受けました。東京藝術大学の作曲科に入って自分の書きたい音を探し始めたときに、前から興味は持っていたメシアン作品の生演奏に衝撃を受けて、感化されたのがパイプオルガンを副科で履修するきっかけでした。初見演奏が得意だった自分にとっても意のままにならないパイプオルガンをもっと弾けるようになりたい、と勉強を進めていった結果、作曲の先生から演奏の勉強を並行して進めるようにアドヴァイスをいただいたこともあって、今に至ります。
Q “ルーシー”は、19世紀フランスで活躍した名オルガン製作家アリスティド゠カヴァイエ・コルの仕様をひとつのモデルとしていますね。
近藤:様々な経験を積んできて、“ルーシー”のことがわかってきて、カヴァイエ゠コルのこともわかってきた今、カヴァイエ゠コルの楽器から生まれてきたフランスのシンフォニック・オルガンのレパートリーを鳴らしてみたいと思ったのが、今回のプログラムを組むひとつの動機でした。加えて、前任の三浦はつみさんが退任記念リサイタルをシンフォニック・オルガンの代表的な作曲家であるヴィドールで締めくくられたことも、意識しました。とにかく、“ルーシー”にはヴィドールにぴったりな音色のパイプがたくさん兼ね備えられているんです。
たったひとりで、オーケストラのように豊かな響きを奏でるフランスのシンフォニック・オルガンを、この“ルーシー”で是非、お聴きいただきたいと思います。
Q 受け継ぐ、ということでいうと、今回選ばれた3人の作曲家の関係性にもつながりますね。カヴァイエ゠コルのオルガンが建造された教会で活躍していた3人でもありますね。
フランクはヴィドールにパリ音楽院のオルガン・クラスを引継ぎ、ヴィドールはデュプレに教会オルガニストを引き継いだ。託していくもの、受け継いでいく大切なものと、新しく生み出していくものと、人が変われば流れは変わっていくものだけれども、三浦さんからいただいたものに自分らしさが加わって束になっていく、というアイディアはプログラムに反映させてみたかったんです。

祝祭的で希望に向かっていくようなヴィドールの《オルガン交響曲第6番》、バッハのオルガン作品全曲を暗譜で弾きこなしたヴィルトゥオーゾ、デュプレの3つの《前奏曲とフーガ》、アニヴァーサリー・イヤーのフランクの名作……。この魅力的で聴きごたえのあるプログラムを「ルーシー、おかえり。これからもよろしくね。」という気持ちで弾きたい、と語る近藤さん。聴く人の心を充実感でいっぱいにしてくれるコンサートとなるに違いありません。是非、新ホールオルガニストと“ルーシー”の新たな一歩を聴きにいらしてください。
聞き手:横浜みなとみらいホール 事業企画グループ オルガン担当
■ホールオルガニスト就任記念 近藤 岳 オルガン・リサイタル
https://yokohama-minatomiraihall.jp/concert/archive/recommend/2022/11/2412.html
■コラム|"Lucy(ルーシー)"をご存じですか?
https://yokohama-minatomiraihall.jp/column/2022/10/367.html