コラム

“Lucy(ルーシー)”をご存じですか?

2022年10月19日 (水)

 横浜みなとみらいホールの大ホールに足を踏み入れると、まず目にとびこんでくるのが、大きなパイプオルガンです。このパイプオルガンは、ホール開館以来、“Lucy(ルーシー)”という愛称で、お客様にも親しまれてきました。
 まだ、横浜みなとみらいホールに足を運んだことがない方、パイプオルガンを聴いたことがない方に、”Lucy”についてご紹介いたします。

横浜みなとみらいホール大ホールとパイプオルガン "Lucy" ©平舘 平

 “Lucy”は、アメリカのボストン近郊、グロースターに工房を置くC.B. Fisk社製作のパイプオルガンです。横浜みなとみらいホールの建設計画と並行してパイプオルガンについても設置計画が進んだことから、ホールの音響設計にもしっかり組み込まれただけに、まさしく横浜みなとみらいホール大ホールの空間全体が楽器、ということができます。
 オーケストラが活躍するコンサートホールにふさわしく、オルガンの設計はオーケストラとの共演を前提に考えられました。一方、パイプオルガンのレパートリーには欠かせないバッハ作品を美しく響かせることも考慮されています。その結果、19世紀フランスで活躍した名オルガン・ビルダー、アリスティド・カヴァイエ゠コルをひとつの模範としながら、ドイツ・バロック音楽の演奏にふさわしい音色のパイプ群も兼ね備えているのです。こうした、歴史的なパイプオルガンの建造法に則りながらも良いところをうまく組み合わせる設計は、地方ごとの様式にしばられないアメリカのビルダーならではの美点、といえるでしょう。

"Lucy" の演奏台。比較的小柄な日本人が演奏しやすいように設計されているのが特徴です。©吉村 永

 1998年の横浜みなとみらいホール開館以来、「オルガン・1ドルコンサート」や、夏休みのオルガン企画、リサイタルなどを通じて、”Lucy”は初代のホールオルガニスト、三浦はつみ氏とともに、多くの人々に親しまれてきました。
 実は、パイプオルガンが愛称で呼ばれることはとても珍しいのです。そもそもは、他のパイプオルガンと同じようにビルダーのナンバリングである「Op. 110」と呼ばれていたのを耳にした三浦さんが、「光」を意味するラテン語”lux”に由来し、アメリカでポピュラーな名前”Lucy”と呼ぶことを提案。以来、アメリカからやってきた元気な女の子のイメージをもつ”Lucy”の名は、輝かしい音色と優美な曲線を生かしたデザインにもぴったりとあって、ホールによく足を運んでくださる方々の間ですっかりおなじみとなりました。

曲線が活かされた "Lucy" のデザイン、手鍵盤の左右に扇状にストップが並んでいます。©平舘 平

 長期休館中に、オーバーホールと呼ばれる大規模なメンテナンスを行った”Lucy”は、いっそう輝きを増して、皆様に音楽をお届けできる日を心待ちにしているところです。
 リニューアルオープン記念事業では、オーケストラとの共演でも大活躍。でも、なんといっても、新しくホールオルガニストに就任した近藤 岳氏によるリサイタルは聴き逃せません。”Lucy”が最も得意とする、フランスのシンフォニックなオルガン音楽をたっぷりとお届けしますので、”Lucy”との再会を待ちわびていた方にも、「初めまして」の方にも、是非お聴きいただければと願っています。皆様のご来場を心からお待ちしております。

文:横浜みなとみらいホール事業企画グループ

■ホールオルガニスト就任記念 近藤 岳 オルガン・リサイタル  
https://yokohama-minatomiraihall.jp/concert/archive/recommend/2022/11/2412.html

■横浜みなとみらいホール オルガン事業ラインアップ  
https://yokohama-minatomiraihall.jp/concert/2/