インタビュー

[2023年度コンサートカレンダー夏号掲載]
反田恭平(ピアニスト・プロデューサー)インタビュー

2023年7月20日 (木)

第2代プロデューサー、始動

取材・文:宮本 明
写真:蓮見 徹

「4歳の頃にはキャプテンをやっていました。母がコーチから聞いたところによれば、幼いながらになんとなくチームをまとめていたそうです」
2歳で入ったサッカー・クラブでの話。先頭に立って率いる資質は生来のものなのだろう。
すでに指揮者として、新生オーケストラ「ジャパン・ナショナル・オーケストラ」を株式会社として立ち上げるというまったく新しい試みにもチャレンジしているピアニスト反田恭平が、横浜みなとみらいホール プロデューサー 2023-2025に就任した。

「このホールで初めて弾いたのは中学3年生の時の全日本学生音楽コンクール。リストの《メフィスト・ワルツ第1番》を弾きました。ショパン・コンクールのファイナルで弾いたショパンの《ピアノ協奏曲第1番》を、2017年に初めて弾いたのもここ。愛着のあるホールで仕事をするのはとても実のあること。『好きなことをやっていい』と言われているので、僕にしかできない、新しいことをやりたいと思っています」

就任初年度のメイン・プロジェクトは2024年3月に5日間にわたって開催される開館25周年音楽祭だ。
「25という数字にこだわって、25のコンサートを作りたいと考えています。柱の一つが、"弾き振り"(※1)に特化した、指揮者のためのピアノ協奏曲。前館長の池辺晋一郎先生に作曲をお願いした新作の初演です」
これはもともと自分自身が作曲しようと構想していたアイディアだそうで、編成的にも時間的にも、ピアニストが指揮しやすい規模を想定した協奏曲。単一楽章で2管編成、20分程度の作品を思い描いている。
「たとえばブラームスの《ピアノ協奏曲第2番》を、いきなり弾き振りで、と言われても、なかなか難しいと思うんですけど、チェンバー・オーケストラ(※2)ぐらいの編成ならとっつきやすい。いま世界を見ていると、弾き振りというジャンルはこれから確実に増えると感じているんです。ここで一曲書いていただければ、のちの世に引き継がれていくんじゃないか。初めて弾き振りをやってみようという人のステップアップのための作品にもなればいいなと思っています」   

25周年音楽祭では他に、赤ちゃんが泣いていてもOKなコンサートや、勤め帰りの聴衆が足を運びやすいように配慮した午後8時開演や、45分間、60分間のショート・プログラムのコンサート、横浜みなとみらいホールで以前から実施している「ミュージック・イン・ザ・ダーク」(=暗闇の中で視覚以外の感覚で音楽を体験するインクルーシヴな音楽会)、さらには横浜市内の全中学生を招待する構想など、多様なアイディアを語ってくれた。  

なかでも注目される企画が、演奏家が聴衆一人だけのために演奏するマンツーマンのコンサート。
「自分の聴きたいアーティストが、自分だけのために弾いてくれる。面白い企画だと思います。きっとものすごい倍率になると思いますよね。実は海外にはあるんですよ。やってみたいです」
ぜひ実現してほしい夢企画だ。

もうひとつ、自身がオルガンに挑む「オルガン道場」というチャレンジ企画を、今夏から始動する。
「25周年音楽祭でブラームスの《11のコラール前奏曲》を何曲か演奏するのが当面の目標です。先日、横浜みなとみらいホールのオルガン"ルーシー"に触らせていただいて興味津々。初めてオルガンに触れるプロのピアニストが、どんなものをお届けできるか。ご期待ください。自分では足(鍵盤)次第だと思っています。レッスンの様子は動画でご紹介する予定です。オルガンってこんなに素敵で、こんなに難しくて、こんなに魅力的な楽器なんだよということを伝えるのが僕の役目。また、自分が指揮を勉強するうえでも、オルガン付きのシンフォニーや宗教曲などを演奏するに当たって、オルガンに触れることが大きな経験値になると思っています」  

来たる7月31日(月)には初代プロデューサー・藤木大地の企画である「みなとみらいアコースティックス 2023」に出演。
藤木とのデュオで歌曲伴奏を初披露して新旧プロデューサーがバトンタッチを交わす。
「あまり言ったことがなかったのですが、実は声楽曲は、モスクワ音楽院時代、夢に出るほど勉強しました。勉強はしたのですが披露したことはないので、歌曲、楽しみです。声楽曲といえば、ちょうど今年12月にウィーンでモーツァルトのレクイエムを指揮する予定もあるんですよ」  

プロデューサーとして、オルガニストとして、歌曲ピアニストとして、私たちがまだ知らない、いろいろな顔の反田恭平に、横浜で会える!

---------
(※1)指揮者自らがソリストとして協奏曲の演奏も行うこと。
(※2)小編成による室内管弦楽団

反田恭平

そりた・きょうへい
|ピアニスト・プロデューサー
2021年第18回ショパン国際ピアノコンクールで日本では半世紀ぶりの第2位を受賞。2016年のセンセーショナルなデビュー・リサイタル以降、毎年オーケストラ、リサイタルのツアーを全国で行なっている。2018年からは室内楽や自身が創設したジャパン・ナショナル・オーケストラのプロデュースも行っており、2021年にはオーケストラのための新会社を立ちあげ、奈良を拠点に世界にむけて活動を開始している。2019年にはイープラスとの共同事業でレーベルを立ち上げ、2020年のコロナ禍ではいち早く有料のストリーミング配信を行い、2021年からは若手の音楽家とファンを繋ぐコミュニケーションの場となるような音楽サロン「Solistiade」も運営している。現在はウィーンを拠点に指揮の勉強も続けながら国内外で活動を続けている。2023年のシーズンはドイツ、カナダ、イタリアでの演奏のほか、台湾などアジアでのデビューが決まっている。                     オフィシャルHP https://www.kyoheisorita.com
Solistiade https://solistiade.jp/
©蓮見 徹

プロデューサー in レジデンス

国内外で活躍する音楽家がホールと連携して演奏会の企画・制作に取り組む事業。音楽ファンの心に残る企画性の高い演奏会の実現、さらには、様々なスタイルで音楽を楽しむことができるようになった社会で音楽家自身のプロデュース力の向上を目指す。


■公演情報 
 横浜みなとみらいホール プロデューサー 2021-2023 藤木大地プロデュース
 みなとみらいアコースティックス 2023
2023年7月31日(月) 19:00開演(18:20開場) 
会場:横浜みなとみらいホール 大ホール
出演:藤木大地(カウンターテナー)、反田恭平(ピアノ)、務川慧悟(ピアノ) 

詳細:https://yokohama-minatomiraihall.jp/concert/archive/recommend/2023/07/2881.html
※チケットは予定枚数終了しました。