インタビュー

[2025年度コンサートカレンダー冬号掲載]
藤原道山(尺八演奏家)インタビュー

2025年12月5日 (金)

暗闇の中で五感を研ぎすまし、ここでしか聴けない音の響きを

取材・文: 山崎浩太郎
写真:平舘 平

 漆黒の闇の中の響きに全神経を集中し、感覚を研ぎ澄ますことで、音楽との新たな出会いをもたらす「ミュージック・イン・ザ・ダークⓇ」。2026年は尺八演奏家の藤原道山を中心に、和楽器、パーカッション、ソプラノ歌手と、さまざまなジャンルの視覚に障がいのあるアーティストとないアーティストが集うコンサートとなる。

 道山にとってこのプロジェクトへの出演は、2021年の公演以来2回目となる。
「ホールの照明を全て消した暗闇で音だけに集中して聴くという体験は、あまりできないことですよね。視覚による情報が失われたときにどういうことになるのか、演者が見えないときに、客席の方がどう感じるのか、とても興味深かったので、僕自身もいろいろな実験をさせてもらったみたいでしたね」

 舞台が正面に見えると、観客は舞台から音が出ていると感じる。
「でも、ホールの響きというのは、天井から降りてきたり、横の壁からの反射があったりなど、実はいろいろな方向から聴いているものなんです」
 さまざまな方向から、取り囲むように聴こえてくる音。その響きを視覚に頼らない状態で体験してもらう面白さへのこだわりは、今回も同様だ。

 邦楽の合奏では、視覚よりも息で合わせることを大切にする。闇の中では、気配で察する感覚がより研ぎ澄まされると感じる。邦楽では歴史的に、琵琶法師をはじめとして盲目の演奏家が少なくない。前回につづいて共演する箏の澤村祐司は全盲の奏者であるし、箏曲の近代化に多大な功績を遺した宮城道雄も、7歳で失明している。

「宮城道雄はその随筆に、映像がついた夢と音だけの夢の両方がある、と書いているんです。その感覚がどういうものなのか、はかり知れないものがあります。一方で、自分たち音楽家は、いかに細かく音を聴いていくかということをすごく大事にしています。視覚からの情報がなくなることで、今以上に、これまで使っていなかったような感覚を呼び覚ます、その扉を開けるようなものになるのではないかと感じます」 

 今回は宮城道雄の作品も2曲演奏される。
「『春の海』は正月の音楽として有名ですが、生で全曲を聴くチャンスは案外少ないと思います。波の音や海の様子、鳥の鳴き声、船頭さんの舟唄などが曲の中に入っている作品です。また『ロンドンの夜の雨』は、宮城道雄がロンドンに演奏旅行したときの作品なのですが、この曲について書いた随筆に『銀色の珠』という言葉が出てくるんです。銀色の珠というのは、とても視覚的な言葉ですよね。まだ目が見えていた子供のときの視覚的な記憶、映像の記憶が、『銀色の珠』という言葉に凝縮されていると思います。目が不自由だった宮城道雄の音の世界、音の感覚を、視覚のない空間で感じてもらいたいと思い、選曲しました」

 この宮城だけでなく、道山の自作も含めた古今の名曲が、尺八アンサンブル「風雅竹韻」による立体的な響き、「心に沁みてくる歌声」と道山が絶賛するソプラノの小汐唯菜、道山とは東京藝大の学生時代から共演を重ねてきたパーカッションの神田佳子による変化に富んだ編成のさまざまな響きで、闇の中から聴こえることになる。また、道山とは藝大の同級生だったという作曲家、加藤昌則の編曲による生誕140年の山田耕筰メドレーも聞き物だ。

「タイトルの『闇に響く音』は前回から引きつづいてのものですが、『闇』にも『響』にも『音』という字が入っていることからつけさせていただきました。普段のコンサートとはひと味違った公演で、出演者もめったに経験できない環境での演奏です。ここでしか聴けない音の響きをお楽しみいただければと思います」 

藤原道山

ふじわら・どうざん|尺八演奏家
初代山本邦山(人間国宝)に師事。東京藝術大学音楽学部邦楽科卒業、同大学院音楽研究科修了。平成30年度文化庁芸術祭優秀賞、令和2年度(第71回)芸術選奨 文部科学大臣賞、第5回服部真二音楽賞他受賞。伝統音楽の演奏活動及び研究を行うと共に、「KOBUDO -古武道-」等のユニット活動のほか、舞台音楽、音楽監修など多岐な活動を展開中。東京藝術大学奏楽堂にて山田和樹氏(指揮者)と藝大フィルハーモニア管弦楽団を迎えデビュー25周年記念コンサートを開催。 現在、公益財団法人都山流尺八楽会所属・竹琳軒大師範。都山流道山会主宰。公益社団法人日本三曲協会会員。生田流箏曲彌生会音楽顧問。東京藝術大学副学長・音楽学部准教授。美幌観光物産大使(北海道)
     ©平舘 平


■公演情報 
ミュージック・イン・ザ・ダーク® ~闇に響く音~
2026年2月7日(土) 15:00開演(14:15開場)
会場:横浜みなとみらいホール 小ホール
詳細:https://yokohama-minatomiraihall.jp/concert/archive/recommend/2026/02/4192.html