2024年度 ホールオルガニスト・インターンブログ【第7回】
2025年3月27日 (木)
こんにちは。ホールオルガニスト・インターンシップ・プログラム第20期生の中川美香です。
3月8日に神戸国際大学諸聖徒礼拝堂で開催されたコンサートに、フェリス女学院大学宗教センター付属聖歌隊MUSICA SACRAのメンバーとして出演しました。今回は、その時に出会ったオルガンを中心にご紹介させていただきます。
神戸国際大学の礼拝堂は2002年に竣工され、そこには2006年に横浜みなとみらいホールのパイプオルガンと同じC.B.フィスク社によって製作されたパイプオルガン“ルナ”があります。

神戸国際大学オルガニストの伊藤純子さんから、“ルナ”について色々お話を伺うことができました。
チャペルを設計する段階から、既にオルガン設置のプランがあり、ヨーロッパの大聖堂などに響く豊かで繊細なオルガンの音響のイメージを実現させるために、色々な工夫が成されているそうです。その一つが、オルガンから遠い場所にある祭壇上の高さ21メートルの吹抜空間です。


祭壇上で歌ったMUSICA SACRAのメンバーも「声が響いて気持ちがよかった!」と言っていましたが、実際の空間よりも広く感じられ、オルガンの音色もチャペルの空間を抜けて、天まで届くような感覚を覚えました。天井と壁が斜めに傾いているのも音響のためのようです。
コンサートでは、来場されたお客様の暖かい雰囲気に包まれ、MUSICA SACRAのメンバーの歌声が「天使の声」のように聴こえる瞬間がありました。キリスト教では、今は復活前の受難の時期にあたります。コンサートではありましたが、祈りの場でもあったように思います。
私は伴奏を担当。オルガンソロ曲も1曲弾かせていただきました。“ルナ”は、パイプ1758本、30のストップ、手鍵盤2段+足鍵盤のオルガン。製作者が横浜みなとみらいホールのオルガン“ルーシー”と同じC.B.フィスク社なので、共通点も多く(例えばストップに記載されている文字が一緒だったり、コンビネーションボタンが同じだったり…)、人間で言うと遺伝子が同じであること間違いなし!ルーシーの妹に会って弾いている、なんとも言えない感慨深い気持ちになりました。
“ルナ”の語源は「月」。月の光のような神秘的な空間が広がっていて気持ちが落ち着き、心が洗われるようでした。実は私が昔飼っていた愛犬の名前も“ルナ”。天国にいる“ルナ”はどうしているのかな?なんて懐かしい気持ちも味わいながら…幸せなひと時を過ごしました。


3月9日は日曜日。日本聖公会神戸教区のオルガニストでもいらっしゃる伊藤純子さんにアレンジしていただき、教会巡りをしました。
神戸聖ミカエル教会の礼拝では、MUSICA SACRAの指導者でもある、横浜みなとみらいホール初代ホールオルガニストの三浦はつみ先生がオルガンを奏楽し、陪餐時にはMUSICA SACRAが聖歌隊として参加。10時過ぎになると地元の信徒の方々が集まり始め、10時半から聖餐式が始まりました。私はカトリック信者なのですが、聖公会の聖餐式はカトリック教会のミサと似ているところが多く、宗派が違っても同じ神様を信じていると感じました。神戸聖ミカエル教会のパイプオルガンは、2013年にイギリスのマンダー社によって製作され、18ストップ、2段鍵盤+足鍵盤を備えています。聖堂内にあるステンドグラスも素敵でした。



昼食を食べた後に向かった先は日本キリスト改革派 神港教会。この教会には2002年に製作されたガルニエ社製のオルガンがあります。
このオルガンは、17世紀の北ドイツとオランダの様式が採用され、調律法がミーントーンです。すべての長3度がうねりのない純正となり、響きの純粋さと統一感が得られます。
ミーントーンでは、現代の平均律のようにソ♯=ラ♭、ミ♭=レ♯にはならず、ソ♯とラ♭、ミ♭とレ♯の黒鍵を前後に分割し、それぞれ固有の音を弾き分けられるようにしてあります(分割鍵盤)。そのため、改革派教会の宝とも言えるジュネーブ詩編歌や、コラール、それに基づく奏楽曲の音色が教会全体に美しく響くのです。



このオルガンは、各鍵盤とも一番低いオクターヴには、シ♭以外の黒鍵はありません。用いられる機会が少ない黒鍵の太いパイプを節約するために、一番低い3つの音、ド・レ・ミを、見かけ上のミ・ファ♯・ソ♯の鍵盤に充ててあります。左手でより多くの音を和音としてつかめるという利点もあります。分割鍵盤とショートオクターブの様式を備えたオルガンはこれが日本で最初のものだったようです。
教会に詩編歌の楽譜があったので弾かせていただきました。
分割鍵盤だと、ソ♯を弾くとき鍵盤のどっちだったっけ?と慣れるまでちょっと時間がかかりそうで、一緒に見学に来たフェリスの学生と1声部ずつ担当して連弾してみました。オルガンの授業で、分割鍵盤の存在は知っていたのですが、実際に触ったのは初めてで感動しました。

最後に訪問したのが六甲カトリック教会。こちらには1970年に製作された辻オルガンがありました。もともと大阪の日本基督教団東梅田教会に設置されていたものが移設されたそうですが、モダンな六甲カトリック教会の空間にも十分馴染んでいました。
カトリック教会で数十年ぶりに日本での典礼が見直され、一昨年11月末の待降節より新しい典礼になりました。カトリック教会のオルガニストとお会いすると、それぞれの教会がどのミサ曲(A~Cパターンがある)を歌っているのかなど情報交換が行われますが、今回は六甲カトリック教会のオルガニストの方とも、そのような内容で盛り上がりました。


横浜と神戸は同じ港町であり、街の雰囲気が似ていました。 横浜みなとみらいホールの“ルーシー”に近藤先生というお父さんがいるように、神戸国際大学の“ルナ”には伊藤純子さんというお母さんがいました。
そして、C.B.フィスク社の3代目社長であるSteven Dieckさんは、ご自分が製作に関わったオルガンのコンサートには可能な限り足を運んでいらっしゃるそうで、今回のコンサートもリハーサル時からずっと見守ってくださっていました。
オルガン大好きな皆さん、神戸に行かれた際には是非“ルーシー”の妹“ルナ”に会いに行ってみてくださいね!

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<今後オルガン”ルーシー”の音色がたのしめるコンサート>
★第251回オルガン・1ドルコンサート 謝謝!ルーシー【出演:趙 三川】
4月23日(水)12:20開演(11:40開場)
詳細はこちら
★第252回オルガン・1ドルコンサート 光に導かれて【出演:中川美香】
5月21日(水)12:20開演(11:40開場)
詳細はこちら
★横浜みなとみらいホール オルガン・リサイタル・シリーズ 48
鈴木雅明 オルガン・リサイタル
6月5日(木) 19:00開演(18:20開場)
詳細はこちら
★第8回オルガン・1アワーコンサート ヘンデル頌【出演:今井奈緒子】
7月16日(水)14:00開演(13:20開場)
詳細はこちら
(4月12日(土)一般発売)
「ホールオルガニスト・インターンシップ・プログラム」
横浜みなとみらいホールが2002年より実施している、若いオルガニストを対象とした、ホールオルガニストに必要な資質を習得するための研修制度です。
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