コラム

カーティス音楽院 オルガンコース アンディ・ブラウンさん ご来館

2024年10月13日 (日)

今夏、アメリカ合衆国フィラデルフィアにある、カーティス音楽院 オルガンコースに在籍中のアンディ・ブラウンさんが"Lucy"に会いにご来館されました。
オルガンコースの学生は、なんと5名のみという精鋭が在籍しているそうです。
アメリカ生まれである"Lucy"(ボストン近郊のグロースターで設立されたC. B. フィスク社製)を弾いてみての感想やカーティス音楽院での勉学の様子をお聞きしました。

横浜みなとみらいホールのパイプオルガン"Lucy"弾いてみていかがでしたか?

 横浜みなとみらいホールでは素晴らしい時間を過ごすことができました。オルガン"Lucy"は美しく、非常に多岐に渡った音色を奏でることができます。
 その中でも一番楽しんだのはフル・オルガン(full organ)の音色で、壮大な響きは迫力があり、フランスのロマン派や後期ロマン派のレパートリーに特にぴったりでした。リードは音色も音量も特にダイナミックでした。そして"Lucy"の汎用性の高さもとても気に入りました。また、モダン・ロマン派・バロック期に最適なドイツ的な音も多くあり、後期ロマン派に適したイギリスの音もいくつかありました。アメリカの音楽を弾くときに使える、チェレスタが入っていることもとても嬉しかったです。
 "Lucy"で最も印象的なのは、音色と音の強弱の幅の広さだと思います。穏やかでみずみずしい弦楽器から力強いトランペットや、足鍵盤ではとどろくようなチューバまで鳴らすことができる演奏する楽しみが詰まった楽器でした。

練習中の様子

カーティス音楽院オルガンコースの学生は普段どのように練習をしていますか?特徴的なプログラムはありますか?

 高度な演奏技術を身につけるために、基礎として全員ピアノを練習します。具体的には、最初にピアノでオルガンとピアノ両方のレパートリーを練習します。特に曲調が速く、高度な技術を要する曲はこの方法が適していると思います。また手鍵盤と足鍵盤のパートをバラバラに練習することで、演奏の細部にまで注意を払うことができます。オルガンは同時に複数の音を出す楽器のため、演奏しているすべての音を理解する必要があります。
 カーティス音楽院のオルガニストたちの特徴は、クリエイティビティです。楽譜には書かれていないストップを選んだり、弾き方を変えてみたりすることもあります。パイプオルガンは楽器一つ一つに個性があるため、オルガニストは作曲家になる必要があります。また、カーティス音楽院では音楽的に優れていることを最も重要視しています。歴史的な演奏や音楽のルールを理解することも大切ですが、聴衆が聴きたいと思う音楽を創り出すことを大切にしています。

どんなオルガンを練習のために使用していますか?

 カーティス音楽院には、練習用オルガンが3台、スタジオ用オルガンが1台、演奏用オルガン(メインオルガン)が1台あります。
練習用オルガンは練習するためだけのものでとても小さいです。それぞれ2~5ランク(パイプの列)のパイプと2段の手鍵盤とペダルがあります。シンプルな構造で、主に音符や曲の基本的な音楽要素を学ぶためのものです。
 スタジオ用オルガンは14ランク、3段の手鍵盤とペダル、その他いくつかの基本的なシステムがあります。主な用途は練習用ですが、より大きいのでレジストレーションや曲中のレジストレーション(音色の組み合わせ)の変更など、より大きな音楽的要素の練習にも使用できます。このオルガンはコンサートホールの予約がいっぱいのときに、メインオルガンのバックアップとしても機能します。
 私たちのメインオルガンは、5段の手鍵盤とペダル、その他あらゆる種類のシステムを備えた116ランクのとても大きなオルガンです。あらゆるレパートリーに対応できるよう完全装備されており、「フィールド・コンサートホール」(カーティス音楽院にある講堂)にあります。ここでレッスン、スタジオクラス、マスタークラス、演奏会を行っています。また、ロングウッド・ガーデン、キンメル劇場芸術センター、ワナメーカーオルガンなど、フィラデルフィア近郊の他のオルガンも使用しています。

カーティス音楽院の練習用オルガン
カーティス音楽院の練習用オルガン
フィールド・コンサートホールのオルガン
ロングウッド・ガーデンのオルガン
キンメル劇場芸術センターのオルガン
ワナメーカーオルガン

カーティス音楽院のオルガンと、"Lucy"の似ている点と違う点を教えていただけますか?


 まず、どちらも非常に汎用性の高い楽器で、様々なレパートリーに対応できます。また、どちらも交響曲的な性質を持っているので、ロマン派やモダンのレパートリー、他の楽器との共演に適していると思います。
 しかし、いくつか違いもあると思います。"Lucy"はどちらかというとフランスのロマン派音楽の演奏に特に優れている「シンフォニック・オルガン」というタイプで、カーティスのオルガンはアメリカの「シンフォニック・オルガン」です。そのため"Lucy"はオルガンのレパートリーを演奏する能力が高く、カーティス音楽院のオルガンは他の楽器を模倣する能力が高いです。また"Lucy"ではより大きな音で演奏することができます。ほとんどの場合、カーティス音楽院のオルガンは1930年代の音楽を演奏するために設計されています。それに対し"Lucy"は、オルガンの真髄ともいえるレパートリーをすべて演奏できるよう設計されています。
 つまり、”Lucy”には「オルガン」の音が多く、カーティスのオルガンには「オーケストラ」の音が多いということです。

来日中、日本とアメリカのパイプオルガンやオルガニストを巡る環境の違いを感じましたか? 

 どちらの国の状況も基本的には似ている点が多いと思いましたが、大きく2つの違いに気がつきました。
 1つ目の違いは、オルガンのリソースへのアクセスのしやすさです。アメリカには本や楽譜といったオルガン教材がたくさんあり簡単に手に入れることができます。また、アメリカの方がパイプオルガンそのものへのアクセスもより容易だと感じました。
 2つ目は、日本のオルガンに対するサポートの充実度です。東京芸術劇場で行われたオルガン・リサイタルに足を運ぶと、ホールが観客で埋め尽くされていました。これはアメリカではなかなかみることのできない光景で、日本にはパイプオルガンに対する大きな愛と理解があると感じました。



アンディさん、今回はインタビューにもお答えいただきありがとうございました!
カーティス音楽院のことだけでなく、アメリカにおけるオルガンの状況も理解できる機会となりました。

カーティス音楽院のオルガンコースについて、より詳しい情報を知りたい方は、カーティス音楽院のウェブサイトをご覧ください。
またアンディさん個人の活動はInstagramで拝見できるそうです。@andymacb