インタビュー

[2024年度コンサートカレンダー夏号掲載]
塩谷 哲(ピアニスト)インタビュー

2024年6月5日 (水)

ジャズの魅力を新しい形でお届けする『Brilliant Jazz Pianist』シリーズ。
第1回には塩谷 哲が登場する。

どうなるかわからない ワクワクドキドキを みなさんと共有したい 

取材・文:藤本史昭
写真:平舘 平

ある時はラテン、ジャズ、クラシック、ポップスとあらゆるジャンルを弾きこなすマルチ・ピアニスト。ある時は壮大なオーケストラ作品から子ども向けの歌まで様々な音楽を紡ぎ上げる作編曲家。またある時は、音楽大学で後進を育てる指導者。 しかしてその実体は……
「なんなんでしょう? よくわかんないですね(笑)」と、本人も答えに窮するほど八面六臂の活動を繰り広げている“SALT”こと塩谷 哲。
昨年ソロ・デビュー30周年という節目を迎えたその塩谷が、次なるフェーズへの一歩としておこなうのが、横浜みなとみらいホールでのコンサートだ。

「世界とつながっている街…横浜にくるといつもそういう印象を受けます。ここには早くから大勢の外国人が住んでいたわけですが、それによってもたらされる“異文化に対する寛容さ”が感じられるんです。そしてこのホール。何度か舞台に立たせていただいていますが、なんといっても響きが素晴らしい。床から壁からすべてが共鳴し、楽器の一部になっている。舞台上という一番良い場所でその響きを味わえるのは、プレイヤーの特権ですね」  

今回の公演は、ソロ、横浜みなとみらいホールが主宰する中高生バンドであるみなとみらいSuper Big Band(SBB)との共演、フラメンコ・ギタリストの沖 仁とのデュオと、さながら“プチSALT祭り”の様相。この音楽家の多彩な顔を存分に楽しめる構成となっている。 

「ソロは、自分のオリジナルやみんながよく知っている曲を取り上げます。最近、30周年記念で書き下ろしたオーケストラ作品〈エレジー・フォー・ピアノ・アンド・オーケストラ〉の一部をソロで弾いているんですが、それも演奏する予定です」 

SBBとの共演は、バンドのメンバーはもとより、塩谷自身にとっても実りある出会いとなりそうだ。  

「音源を聴かせていただいたのですが、これ本当に中高生?というくらい素晴らしくて。音楽には、熟練して磨き上げられていく深さというものももちろんありますが、最初に出会った時の、これカッコイイ!やってみたい!という衝動やエネルギーというのは、経験を積むにつれてどうしても失われていくものなんです。彼らと共演することで、そういうものをもう一度与えてもらえるんじゃないかと思っています。一応2曲やる予定で、1曲はSBBのレパートリーでもある〈キャラバン〉。華がある曲なので盛り上がるんじゃないでしょうか。もう1曲は僕のオリジナル〈あこがれのリオデジャネイロ〉。これはビッグバンドのヴァージョンはないので、新たにアレンジを書き下ろします。中高生向けだから簡単に、ということはせず、今後これが定番となるようなアレンジにするつもりです」 

そして最後は沖 仁とのコラボレーション。
この日本を代表するフラメンコ・ギタリストと塩谷は、昨年はじめて本格的な共演を果たしたが、それはとても有意義で楽しい時間になったという。  

「バックボーンにあるのが、沖さんはフラメンコ、僕はサルサなので、リズムの癖や感じ方は違うんです。でも違うからこそおもしろかった。音楽には正解なんかなくて、要は自分たちが感じたものを正直に出せるかどうか。そういう、音楽的に、そして人間的にいかにお互いを信頼できるかという一番大事なところが彼とは出来上がっているので、今回は楽しみなばかりです。曲は思案中ですが、前回の共演で僕の〈スパニッシュ・ワルツ〉という曲をやった時、沖さんはまさに本物のスパニッシュのグルーヴを出してくれて、ものすごく気持ちよかったんです。これは今回もぜひやりたいですね」 

最後に、このコンサートに対する思いを聞いた。  

「コロナ禍もようやく一段落してきましたが、一方で世界情勢は大変なことが続いていて、なんとも生きづらい時代ですよね。そんな時にこういうコンサートを開く、とりわけ若い人たちのビッグバンドと共演するというのは、とても意味があることじゃないかと思っています。年齢、キャリア、人種、宗教、有名無名ということを超えていっしょに何かできるのって、音楽以外にはそうないでしょう。どうなるかわからないけれど、それに対してワクワクドキドキする。それって塩谷 哲という音楽家の生き様そのもののような気がします。そんな気持ちをお客さまと共有したいので、みなさん、ぜひ足をお運びください!」  


横浜みなとみらいホールでは、今回を皮切りに、ピアノを軸としてジャズの魅力を発信するシリーズ『Brilliant Jazz Pianist』を展開する予定だ。
「Jazzの街 横浜」ならではのコンサートをお楽しみに! 

塩谷 哲

しおのや・さとる|ピアニスト/作・編曲家/プロデューサー
東京藝術大学作曲科出身。在学中より10年に渡りオルケスタ・デ・ラ・ルスのピアニストとして活動(1993年国連平和賞受賞、1995年米グラミー賞ノミネート)、並行してソロアーティストとして現在まで12枚のオリジナルアルバムを発表する。自身のグループの他、小曽根真(p)との共演、佐藤竹善(vo)との"SALT & SUGAR”や上妻宏光(三味線)との"AGA-SHIO”の活動、リチャード・ストルツマン(cla)、スティーヴ・ガッド(d)、村治佳織(g)、古澤巌(vln)ほか多数のコラボレート、オーケストラとの共演(2017年大阪交響楽団、2017、2018年NHK交響楽団、2023年東京フィルハーモニー交響楽団)等、活動のジャンル・形態は多岐に渡る。近年はNHK Eテレ音楽パペットバラエティー番組「コレナンデ商会」(2016年~2022年3月)の音楽を担当。現在、国立音楽大学ジャズ専修准教授。


■公演情報 
 Brilliant Jazz Pianist 塩谷 哲コンサート
2024年8月17日(土)16:00開演(15:20開場)
会場:横浜みなとみらいホール 大ホール
詳細:https://yokohama-minatomiraihall.jp/concert/archive/recommend/2024/08/3442.html