インタビュー

[2024年度コンサートカレンダー春号掲載]
阿部 翠・中澤未帆(ホールオルガニスト・インターン)インタビュー

2024年3月5日 (火)

1年の学びの成果を渾身のプログラムで

取材・文:長井進之介
写真:平舘 平

横浜みなとみらいホールは、パイプオルガン"ルーシー"を基軸と した事業を数多く開催。
中でも特徴的なのが 、ホールオルガニストに求められる役割について体験しながら実地で学ぶ 「ホールオルガニスト・インターンシップ・プログラム」だ。
初代ホールオルガニストの三浦はつみの発案により2002年から開始した同プログラムの2023年度研修生には、阿部 翠と中澤未帆が選ばれた。
共に既に演奏者として活躍している二人だが、今回の研修を経てさらなるステップアップができたようだ。

阿部「インターンシップには、"ルーシー"を弾くことにずっと憧れがあって応募しました。
  オルガンは多くの場合が伝統を再現しようとする傾向があるのですが、"ルーシー"は"ふいご"の重りに線路のレールを使ったり、通常は木製のトラッカー*にカーボンを使うなど、新しいことを積極的に取り入れている楽器なのです」

中澤「古いものを受け継ぎつつ、新しい試みも行っているところに私も魅力を感じています。あらゆる時代、国の作品の演奏に対応できるので、次々に色々な曲を弾きたくなってしまいます」

1年間のインターンシップの間、研修生は公演やワークショップなどの事業の企画運営に参加したり、楽器の保守や構造について学び、広報活動への協力など、幅広く学ぶ。
印象に残っていることについてたずねた。

阿部「横浜市の小学5年生を対象にした『心の教育ふれあいコンサート』です。1日2公演を3日間担当するなど、これまでにない数の本番で演奏ができました。オーケストラと共演できたことも嬉しかったですね」

中澤「私も『心の教育ふれあいコンサート』が印象に残っています。
  また、それに向けてのMC研修も貴重な経験でした。プロのアナウンサーの方に滑舌をはじめ、ホールでお話するからこそのスピード感、台本の内容など多角的にご指導いただきました。これからもこの経験をレクチャーなどに活かしていきたいです」

阿部「これまで自分の“喋り”を意識することはなかったので、アドバイスをいただけたのは本当にありがたかったですね」 

彼女たちの充実した学びの日々の成果披露が、4月と5月の『オルガン・1ドルコンサート』で行われる。

阿部「音色のバラエティが豊富で、多種多様な作品に対応できる ルーシーの魅力を届けたい、という想いから"ルーシーの魅力"というテーマでプログラムを組みました」

中澤「"時をめぐる"というテーマに至ったのは、インターンシップが始まってからもう一年経つ、ということを意識したことがきっかけでした。
  一年や一週間、一日…あらゆるものには周期があり、巡っているということ、一方で常に私たちは前に進んでいる…そんな二つの軸をもとにプログラムを決めました」

それぞれが得意とするもの、また今回だからこその選曲となったが、共通しているのは自身の「編曲作品」が含まれていること。
これは現在のホールオルガニストであり、二名の指導にあたった近藤 岳の意向である。

阿部「編曲はオルガンを身近に感じていただくきっかけになるものですし、とても重要なものだと思います。
  実際、インターンシップ期間中に演奏会で、ジブリ作品のメドレーを編曲する機会があったのですが、多くのお客様に喜んでいただきました。作曲家でもある近藤先生に編曲についてもご指導いただけたことは大きな財産です」

中澤「私も、編曲は今後の演奏活動していく中でとても重要なものになると思います。今回選曲した《月の光》を、ルーシーならではの多彩な音色で皆様に楽しんでいただきたいです」 

最後に今後の目標を尋ねた。

阿部「研修期間中、近藤先生が指導する『10代のためのパイプオルガン・レッスン』のお手伝いしました。子ども達が熱心に練習に取り組み、次第の上達していく様子やそれに喜ぶ様子を見て、改めて指導することの素晴らしさを実感しました。
  今後はこの経験を活かした指導を行いながら、もちろん演奏活動も積極的に行っていきたいです」

中澤「音楽を幅広い人たちに楽しんでもらうために、海外にも積極的に出て行って、さらにオルガンを深く掘り下げて学んでいきたいです。また、私自身がオルガンと出会ったことで人生の幅が広がったので、是非たくさんの方々にオルガンとの出会いの場を提供して、この楽器の魅力を知っていただけるようにしていきたいですね」 


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*トラッカー:パイプオルガン内部にある、鍵盤とパイプの弁を繋ぐ木製の細い板状の部品。

阿部 翠

あべ・みどり|オルガン
東京藝術大学音楽学部楽理科、及びオルガン科卒。2021年に同大学院オルガン専攻修士課程修了。2018年より2年間、パリ地方音楽院に留学。これまでにオルガンを長谷川美保、廣野嗣雄、徳岡めぐみ、クリストフ・マントゥ、近藤岳各氏に師事。2016年、「長崎でオルガン音楽を」審査員賞受賞。2017年、奏楽堂モーニングコンサートにおいて芸大フィルハーモニアと共演。フランスでも演奏活動を行う。第49回日本オルガニスト協会新人演奏会出演。 カトリック市川教会、カトリック碑文谷教会,カトリック田園調布教会オルガニスト。明治学院大学横浜キャンパス協力オルガニスト。
©藤本史昭

中澤未帆

なかざわ・みほ|オルガン
洗足学園音楽大学音楽・音響デザインコースを経てオルガンコース卒業。在学中、特別選抜演奏者に認定され、同大学卒業演奏会に出演。スペイン、フランス、日本国内でのアカデミー、マスタークラスに参加、また東京藝術大学大学院修士課程音楽研究科にて研鑽を積む。これまでにオルガンを荻野由美子、早島万紀子、徳岡めぐみ、近藤岳、チェンバロを岡田龍之介各氏に師事。コンサートホールや教会でのソロ演奏や、オーケストラとの共演、子ども向けのオルガン講座を行うなど幅広い活動をおこなっている。第1回「長崎で教会音楽を」オルガンオーディションにて審査員賞を受賞。桜美林中学・高等学校オルガニスト。
©藤本史昭


■公演情報 
 オルガン・1ドルコンサート
 ◆2024年4月24日(水) 第245回 阿部 翠 ~ルーシーの魅力~
 ◆2024年5月29日(水) 第246回 中澤 未帆 ~時を巡る~
会場:横浜みなとみらいホール 大ホール
時間:12:20~12:50(11:40開場)