インタビュー

プロデューサー対談 藤木大地×辻彩奈

2022年3月14日 (月)

プロデューサー対談 藤木大地×辻彩奈

横浜みなとみらいホール主催の出張コンサート「横浜18区コンサート」第Ⅰ期が佳境を迎え、第Ⅱ期(2022〜23年)のスケジュールも発表された。横浜の全18区にある公会堂や区民文化センターなど、各区の地元でクラシック音楽を楽しんで頂こうという企画で、横浜みなとみらいホールにもゆかりがあり、世界でも活躍する気鋭のソリストと、やはり同ホールに関わりの深いオーケストラのメンバーによる室内楽版の協奏曲の演奏を中心にお届けしている。比較的小さなホールで、アーティストと近い距離で音楽を楽しむことが出来る。

2022年の1月13日、JR根岸線新杉田駅に隣接する横浜市磯子区民文化センター杉田劇場では、ヴァイオリンの辻彩奈をソリストに迎え、彼女と神奈川フィルハーモニー管弦楽団の5人のメンバーによって、メンデルスゾーンの傑作「ヴァイオリン協奏曲」などが演奏された。 そこにひょっこり現れたのが、2021年9月から横浜みなとみらいホールのプロデューサーに就任した藤木大地。コンサートの後に、辻と藤木に自由に語り合ってもらった。

■コンサートを終えて

----おふたりは、初めまして、ではないですよね?

藤木 以前から面識はありましたが、実は辻さんの演奏をちゃんと聴くのは初めてです。
  お越し頂いて、ありがとうございます。実はとても不思議な形でお目にかかっていて、テレビの収録とか所属している事務所のイベントとか。
藤木 そうでした。その時にも思ったのだけれど、辻さんは1997年生まれですよね。僕が大学に入ったのは1998年なので、え、そんなに若いんだ、とびっくりしたのですが、今日の演奏を聞かせて頂いても、ステージに立つ姿が堂々としていて、まるで女王のようだなと思いました。
  女王ですか(笑)。
藤木 この人はどうしてこんなに威厳があるのだろう、って。お辞儀もクイーンだったし、オペラだったら女王の役ですよね。
  私はよく、ステージへの出て来る時がクイーンって言われることが多いです。
藤木 そうでしょ? 威厳がある。それだけでなく演奏にも女王様オーラがあって、終わった後までそのままだから、聴く方はずっと夢を見ていられる感じがしました。同時に、神奈川フィルの方々とも息がよく合っていて、お互いにコミュニケーションを取っている姿がとても音楽的な感じでした。

  個人的にはコンチェルトを弾くのが一番好きで、でも、5人の弦楽器奏者の方とメンデルスゾーンの協奏曲を弾くというのは、今日が初めてだったんですね。5人でもオーケストラでも一緒ですが、演奏をする前に楽譜を勉強するのが好きで、この部分はこの楽器と一緒に弾くのだとか、そういうことを頭の中に入れてから演奏します。それは室内楽でも同じなのですが、他の方の音を聴きながら演奏したいというのがいつも心の中にあります。今日は、それが5人だったので、大きなオーケストラとは違い、とてもやりやすかったし、距離が近い分、楽しかったですね。
藤木 この小さなホールで協奏曲を聴くというのが贅沢でしたね。
  私も、普段は大ホールでしか協奏曲を弾かないので、お客様との距離が近くて、自分にとっても贅沢な感じでした。
藤木 舞台上の人数が少ないので、最初はポツンとした感じで演奏が進むのですが、次第に音楽が熱くなって来ると、音楽が舞台上に広がって来る感じがして、とても新しい経験でした。  お客様の集中力を感じられるのですが、この新型コロナウイルスの流行中に無観客で演奏をすることもあって、その時に、あ、お客様から感じるエネルギーはとても大きいんだなと思いましたね。

■プロデューサー、辻さんを掘り下げる

藤木 実は、今日はゆっくり辻さんとお話できるということで、辻さんをよく知る僕の友人たちに、SNSを通して質問をしてみたのです。
辻 え? それはなんですか? そういうサプライズ、めっちゃ嬉しい!
藤木 じゃあ、行きます。最初の方の<辻さんの印象>。
辻 誰だろう?
藤木 辻さんは「裸足で弾く」。これはギタリストの鈴木大介さんから。
辻 大介さんと事務所が一緒なので、社長のおうちでお目にかかるチャンスがあった時に、たまたま裸足だった、ということです。
藤木 大介さんと共演したわけではないのですね。
辻 実は、この3月6日(サントリーホール)に開催される「生誕240年パガニーニの世界〜ヴァイオリン・ギター・歌による〜」で初共演します(※取材日は1月13日)。このコンサートは大介さんのプロデュースで、パガニーニの様々な作品を取り上げます。
藤木 僕もそのツアーに参加して、歌うことになっていますが、パガニーニの「歌」って歌ったことないのだけどな。
辻 そうですよね。パガニーニにはギターとヴァイオリンの作品はたくさんあるのですが、私も歌の方と共演するのは初めてなので、とても楽しみです。

藤木 続いては、年上のピアニスト、碓井俊樹さんから。
 碓井さん! 藤木 実は僕がウィーンに留学していた時に、碓井さんのアパートを借りていたのです。
 えっ、そうなんですか? 私は小学校の時からお世話になっているんです!
藤木 今は横浜シンフォニエッタの代表理事もされていますが、その碓井さんから質問。「岐阜のサラマンカホールの壁で、10代から続いている辻彩奈のサイン・シリーズは最近どうなっていますか?」
 17歳の時に、碓井さんとご一緒して、サラマンカホールでリサイタルをしたのですが、その時に壁にサインをしたのです。それが「サラマンカホール」って書いてある上にサインをしたので、ホールで演奏された方がみんなそこで写真を撮られるのですが、全部その写真に「17歳、辻彩奈」っていう私のサインが映り込んじゃうんです。
藤木 (爆笑)。そうなんですね。
 で、ずっと毎年伺っていて、サインをしていたのですが、コロナが流行してからはコンサートに伺えなくて......、今度、伺ったら書こうと思っています。

藤木 さて、もうひとり居ます。チェリストの佐藤晴真さん。
 晴真くんとは同じ年なんです。
藤木 「辻さんの印象は?」という僕の質問に対して、佐藤さん「印象としては懐がすごく深い。怒ることがない、とご自分でも言われていたように、どこか達観している感じがする。」
 (笑)落ち着いていますね。
藤木 お互いにそうじゃないですか。「音楽的にも、どのように弾いてもまず肯定的に受け止めてくれて、どんなタイプの演奏家と共演しても化学反応を起こさせる人だな、と思います。」 
 実は昨年暮れに晴真くんとピアノの藤田真央さんと3人で初めて共演したのです。同世代の数少ない音楽家のひとりで、北九州での演奏ツアーでした。その時に、晴真くんは「絶対に怒られると思った。めっちゃ怖い人だと思っていた」と言ってたのに、今は全然違うことを言ってる(笑)。だから、一緒に演奏したので、印象が変わったのかなと今は思います。
藤木 リハーサルの時も女王様みたいな感じなんですか?
 違います(笑)。同じ年だからこそ、思ったことを素直に言えたし、良い雰囲気だったと思います。彼も色々な方と室内楽をされているし、リハーサルの時も「ここはこうしようか?」と提案すると、「そうだね、やってみようか」とか。
藤木 実は、佐藤さんが一番たくさん辻さんへの質問を考えてくれたのですが、最後に「プライベートで聞いてみたいこと」という問いかけに対して、佐藤さんが「最後の晩餐に食べたいものは何ですか?」というテーマを投げかけてくれました。
 なんですか、それ(笑)。
藤木 「辻ちゃんぐらい大人びていると、この『最後の晩餐』に食べたいものの答えとして<枝豆>とか、そういう渋い食べ物が答えにあがってくるかなと思います」と佐藤さん。「はたまた、お肉、とか、少年のような単純な答えが返って来るのか、興味があります」ということですが。
 お肉ではありませんね。以前はお肉をよく食べていたのですが、最近はお魚派になりました。なので、最後の晩餐は大好きなお寿司を食べたいと思います。
藤木 僕も。
辻 僕もって(笑)。
藤木 気が合うね。ということで、お返しします。

----と言われても(笑)。次の話題に行きましょう。

■これから取り組みたいこと

----藤木さんに伺いますが、コンサートホールで「アーティストがプロデューサーをする」ということは日本ではかなり珍しいと思うのですが、実際にそれに就任するにあたっては、どんなお気持ちでしたか?
藤木 新井鷗子館長からは数年前に実はオファーがあったので、心の準備はしていました。これまでに自分でコンサートをプロデュースする経験はあったので、そこは問題ないと思っていましたが、コンサートホールの中に入って企画をするとどうなるのかな、という点は、今後、仕事をしながらも考えて行くと思います。日本的に言うと、ちょうど40歳を超えると急にそういった仕事のオファーが増えて来るものなんですね。学校で教えるとか、プロデュースをするとか。だから、こんなに若い辻さんに出会うと、自分もけっこう年だなと実感してしまいます。
----ヴァイオリニストの方はとても若い頃から活躍されますよね。

藤木 僕がコンクールでようやく入賞したのは30歳を過ぎていましたから。
 ただ、ヴァイオリンも声楽と同じく、年齢で演奏もずいぶん変わりますよ。12歳で弾くメンデルスゾーンと18歳で弾くメンデルスゾーンではぜんぜん違って来ると思いますし。

----オペラでもそうですよね?

藤木 僕の場合は、そもそも妖精とか、人間ではない役が多いので(笑)、あまり年齢は関係ないし、そもそも役と年齢はあまり関係がないかもしれないです。ともかく、仕事を依頼されたら、その役を歌うということが多いですから。

----辻さんは、自分自身がプロデュース側に回ったら、何かやってみたいことはありますか?

 やったことがないので分からない部分がありますが、自分のリサイタルでは、このピアニストでこの曲を演奏したいなということはありますよね。
藤木 それ自体がすでにプロデュースですよね。
 10代の頃は全然それが分からなかったけれど、リサイタルでは、自分でこの曲をやろう、ということでレパートリーを増やしていかなければ、とも思いますね。最近では同世代の演奏家と一緒に演奏をしてみたいという気持ちが増えて来て、その演奏家のコンサートを聴きに行ったりしています。

----プロデューサーとして、藤木さんがいま、考えているプランはありますか?

藤木 実はすでに今日の対談も自分で企画したもののひとつです。ここでカメラを回してくれているふたりは、僕が教えている洗足学園音楽大学の声楽科でセルフ・プロデュースのクラスをもっているのですが、そこに参加している学生が担当してくれています。横浜みなとみらいホールのイベントでも動画を制作してもらおうということで参加してもらっています。

----楽理の方とか、音楽学の方とか、そういうジャンルを学んでいる人がマネージメントやプロデュースに関わることはあると思っていましたが、声楽コースでもそういうことが今はあるのですね。

 私も学校でプロデュースやマネージメントを学ぶことは無かったですね。
藤木 「世に出る力」は自分で身につけないと、という風に思うので、みんなが音楽業界で仕事をするためには、どこかで自分の居場所を見つけて輝かないと、思っています。だから、どの学科でも必要なことだと思いますけれど。

----今後の藤木さんのプロデュースに期待しています。辻さんも演奏活動を頑張ってください。

 はい。ありがとうございました。
藤木 今日は良い経験をさせて頂きました。また横浜にぜひ来てください。

進行/まとめ:片桐卓也(音楽ライター)
写真:藤本史昭
会場:横浜市磯子区民文化センター「杉田劇場」

辻 彩奈(ヴァイオリン)

※「つじ」は一点しんにょう
1997年岐阜県生まれ。東京音楽大学卒業。2016年モントリオール国際音楽コンクール第1位、併せて5つの特別賞を受賞。モントリオール交響楽団、スイス・ロマンド管弦楽団、NHK交響楽団、読売日本交響楽団、東京交響楽団、東京フィルハーモニー交響楽団、名古屋フィルハーモニー交響楽団、大阪フィルハーモニー交響楽団などと共演。第28回出光音楽賞受賞。これまでに小林健次、矢口十詩子、中澤きみ子、小栗まち絵、原田幸一郎、レジス・パスキエの各氏に師事。2019年、ジョナサン・ノット指揮/スイス・ロマンド管弦楽団とツアーを実施し、その艶やかな音色と表現により各方面より高い評価を得た。使用楽器は、NPO法人イエローエンジェルより貸与されているJoannes Baptista Guadagnini 1748。

藤木 大地(カウンターテナー)

2017年、ウィーン国立歌劇場に鮮烈にデビュー。東洋人のカウンターテナーとして初めての快挙で、大きなニュースとなる。以後、国内主要オーケストラとの公演や各地でのリサイタルがいずれも絶賛を博している。バロックからコンテンポラリーまで幅広いレパートリーで活動を展開し、絶えず話題の中心に存在する、日本が世界に誇る国際的なアーティストのひとりである。洗足学園音楽大学客員教授。横浜みなとみらいホールプロデューサー2021-2023
Official Website:www.daichifujiki.com