インタビュー

インタビュー特集 #4 佐々木真二(事業企画グループ チーフプロデューサー)

2020年12月8日 (火)

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20211月より長期休館に入る横浜みなとみらいホール。1998年の開館から23年の歴史を振り返るインタビューシリーズ第4弾。最終回となる今回は、ホールの立ち上げメンバーであり、現在は事業企画グループにてコンサートやイベントの企画制作を統括する佐々木真二チーフプロデューサーに話を聞きました。

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ホールモール口にて


「現在は主に、横浜みなとみらいホールが主催するコンサートなど事業の企画制作を担当しています。出演者や関係者との打合せを重ねたり、曲目や進行などの構成を考えたり。公演の制作は何本も並行して進めなくてはならないですし、時間のかかる作業ですので、公演の一年以上前から準備に取り掛かっています。」



新しくホールを立ち上げる

 「もともとは都内のオーケストラの事務局で働いていて、ステージマネージャーやコンサートの企画制作を担当していたのですが、横浜みなとみらいホールが開館する前年1997年に『今度横浜に新しくコンサートホールができる』、という話を聞いて入職試験を受けました。」
 「最初の立ち上げメンバーは10人程度。最初は何もない状態からですから、施設運営のシステムの確立や、コンサートの企画制作など、1から開館準備を始めました。公演を行う際に必要なステージ上の椅子や譜面台といった設備ももちろん用意がありませんでしたので、こちらも揃えなければなりませんでした。特にステージ上に段差をつけるために使う平台は、大ホールのステージがスタンダードとは異なる仕様だったために既成品ではうまくはまらず、特注のものを作らざるを得なかったのです。通常、舞台備品は尺貫法が基本なのですが、大ホールのものはセンチメートル法。ここのこだわりが、ホールの響きとしてよいものを作り出していると思います。ただ、これが今でも舞台スタッフ泣かせと言われているのですが...(笑)」

20201008_021.jpg大ホールホワイエにて



名物シリーズの原点

1999年、当時神奈川フィルハーモニー管弦楽団のコンサートマスターを務められていた尾花輝代充(おばな・きよみつ)さんと一緒に『昼どきクラシック』(現『クラシック・マチネ』)を立ち上げました。そもそもは神奈川フィルハーモニー管弦楽団の若手メンバーの腕試しコンサートをやってみよう、というかなり軽い気持ちで始めた企画だったのですが、当時はほとんどなかった平日昼間の安価な公演というスタイルが功を奏し、全国のホールから視察が来ましたし、予想をはるかに超えて長年に亘りお客様に愛されるシリーズになりました。」
 「また、現在まで毎年開催されている、横浜市に在学する全小学生高学年対象の『心の教育ふれあいコンサート』(横浜市教育委員会主催事業)も横浜市教育委員会と協議の上で立ち上げました。教育委員会の先生たちとテーマとして掲げたのは『形だけではない、本物の音楽会』。通常クラシックのコンサートは午後か夜に開催されることが多いですが、この事業は午前午後と朝早い時間から12回の本番である上に、かなりのプレッシャーがかかる曲目をプログラムに組み込みたかったので、演奏する神奈川フィルハーモニー管弦楽団のメンバーに直談判しに行ったこともありました。席割りを決めるのに徹夜したり、途中で児童が逃げ出して見つけに行ったり等、苦労を語ればキリはないのですが、ある本番の後、感動して涙を流している子どもたちを目にしました。それを見たときは、こだわりを持ってやってよかったと心から思いましたし、無茶を言ったにも関わらず実現してくださったオーケストラの皆さんには今でも本当に感謝しています。」

0823-昼どきクラシック.jpg立ち上げ当初、1998年8月23日開催「昼どきクラシック」の記録写真。中央が尾花輝代充さん。



ステージはお客様をお迎えする場所

 横浜みなとみらいホールのモール口の頭上には1枚のステージ写真が大きく掲示されている。開館前に撮影されたもので、特別な思いがあると話す。

20201008_074.jpg思い出の写真を見上げて

 「それはもう全てが思い出にはなるのですが、ホールの特別な場所、というとやはりこの写真を思い浮かべます。開館前に、参考写真として、公演を想定したステージをいくつか撮ることになったんです。その中で、オーケストラ用に椅子や譜面台がセッティングされた写真を撮りたい、とのリクエストがありました。開館前ですから譜面台や、大型楽器奏者のための特殊な椅子なんかはもちろん用意がなくて、近隣のホールに借りに走って準備しました。ステージはお客様がホールに入ってまず目にするものでもありますし、演奏者がいなくとも椅子や譜面台がピシッと並べられたステージを観た時、コンサートホールの醍醐味ともいえる、日常生活とは違う異世界を感じていただけるのではないかと思います。ステージマネージャーの経験からその難しさも分かっていましたが、何とか迫力を作ろうとこだわってステージを出現させました。」
 「開館後、ホールのモール口エントランスに写真を掲出しようという話が出た時、たまたま当時の館長がこの写真を選んでくださって。自分がお客様をお迎えする気持ちで一生懸命作ったステージの写真が、今までずっとホールの入り口でお客様を迎えてくれているのは、誇らしくもありますね。」



歴史あるホールへ

 「リニューアルオープンする頃には開館してから25年ほど経つことになりますし、歴史あるホールへと変わりつつある時期だと思います。私がオーケストラに勤務していた時、海外演奏旅行で当時のチェコスロバキアを訪れたことがありました。プログラムの演目にはピアノ協奏曲。会場は、入っただけで歴史を感じられる古いホールでしたし、ピアノは時代を経たコンディションの悪いものでした。しかし、ソリストのピアニストが楽器を少し触ってから『このピアノ、古いけどいいピアノです。これまでいろんな素晴らしい奏者が弾かれたんでしょうね』と話されたのです。ホールにも同じことが言えるのではないかと考えています。この横浜みなとみらいホールも、良い奏者・良い演奏会に恵まれて、その積み重ねた年月の重みを感じさせる、素晴らしい場所になっていってほしい、と願っています。」

exterior_night_2.jpg横浜みなとみらいホール外観



取材・文:横浜みなとみらいホール広報チーム
写真:平舘 平
題字デザイン:秋澤一彰