MMCJ2017
創設音楽監督 大友直人さん、アラン・ギルバートさんインタビュー
2017年5月25日 (木)
今年で17回目を迎える「ミュージック・マスターズ・コース・ジャパン(通称MMCJ)」。オーディションを通過した世界中の若手音楽家たちが横浜に会し、18日間にわたって室内楽やオーケストラ演奏について徹底的に学ぶ国際セミナーです。この若手演奏家を育成するプログラムを設立したのは、指揮者の大友直人さんと、アラン・ギルバートさん。タングルウッド音楽センターの夏期講習会で出会った若き日のお二人は、日本においてクラシック音楽の発展に貢献したいと意気投合。その思いを実現させるため、2001年にこのプロジェクトを立ち上げました。今年の開催を控えたお二人に、あらためてMMCJの若手演奏家育成の意義と、お客様がどのようにお楽しみいただけるかその魅力について伺いました。(取材・構成/飯田有抄)
■日本との関係を深め、人間の相互理解を目指す音楽プロジェクト
――お二人がMMCJを創設した理由、このプロジェクトに託した思いをお聞かせください。
大友:私たちがタングルウッドで出会ったのは1988年、私は30歳でギルバートさんが21歳
でした。その頃すでに指揮活動をしていた私は、日本と海外の音楽シーンの違いについてよく考えるようになっていました。
当時から日本は世界でも有数のクラシック音楽のマーケットであり、東京や大阪などの大都市ではコンサート数も内容も大変な活況を呈していました。しかし日本の音楽シーン全体が、本当に国際的な意味や価値のある活動を展開しているかと考えると、非常に心もとない気がしました。世界中の一流のアーティストたちはひっきりなしに来日しているけれど、彼らにとって日本は、単なる演奏旅行先のひとつ。コンサートが終われば帰るだけの繰り返しでした。
そうではなく、もっとこの国と、そしてこの国の音楽家と強く深い関係を築いてくれる才能のある音楽家が一人でも増えてほしい。それがこの国の将来の音楽シーンに大きな力となるのではないか。そうした思いを、日本人ヴァイオリニストの建部洋子さんを母に持つアラン・ギルバートさんと、約30年も前に語り合ったことが、このプロジェクト立ち上げのきっかけとなりました。
ギルバート:こんにち、これまでにも増して音楽は重要なものになってきています。音楽は人々の心をひとつにし、日本と海外の人々がコミュニケーションをはかる上での大きな助けとなります。私たち音楽家は、そのことをもっと広く深く考えるべきですね。
このプロジェクトの意図したことの一つは、人間の相互理解です。それは私も音楽家として個人的にとても大切なことだと考えています。音楽はいかにして世界をより素敵なものにしていかれるか。MMCJはそれを示すことのできる素晴らしいプロジェクトだと思っています。
この17年の間、止まることなく続けてこられたことは驚くべきことですし、個人的にも大変誇りに思っています。私自身、来日のたびにMMCJの影響力、存在感の大きさを感じています。私が指揮する日本の音楽家やオーケストラの楽員たちはみな、このプロジェクトのことをご存知です。
■ 9カ国から集う受講生たち
――今年の受講生は21名。アメリカ、カナダ、スペイン、フランス、ポーランド、ドイツ、イタリア、台湾、日本からの受講生たちが、弦楽四重奏を4グループ、木管五重奏を1グループ編成して連日講習を受け、最後の5日間はオーケストラの講習も受けるとのこと。国際的な顔ぶれで音楽を作り上げる経験をすることになりますね。
大友:年々優秀な受講生が増えており、国内外のコンクールで入賞する人たちが参加するレベルになってきました。DVDやライブによるオーディションを通過する音楽家たちは、国籍で選ばれている訳ではありません。幸運にもさまざまな国籍の学生達が集うようになりました。当初は私たち講師陣と繋がりのある学生からの申し込みが中心でしたが、参加経験者の口コミや、ネット社会の影響により、直接的なつながりのない方も申し込んでくれるようになってきました。
ギルバート:私も参加者のレベルが上がっていると感じます。別の視点から言いますと、毎回スタート時からすでに、学生達がMMCJに明確な期待を持って参加するようになっています。プロジェクトを始めた当初は、ここでは何を学んでもらい、どんなことをするかを受講生に説明しなければなりませんでしたが、今では私たち講師陣が望んでいることを受講生たちが最初からわかった上で、意気込みをもって参加していますね。
ーー世界中の優れた若手演奏家たちがここ「横浜」で、音楽を通じた国際交流をはかってくれることは素晴らしいことですね。
ギルバート:「横浜にいる、横浜で学ぶ」。ただそのことだけでも、外国からの学生にとっては、日常と大きな違いがありますし、とてもいい経験になるのです。ひょっとすると、何かしら母国との共通点を見出すこともあったりしますしね。学生達はそれぞれ言語が異なるけれど、なんとかして互いにコミュニケーションをとる方法を見つけ出していきます。私たちはとくに日本的な要素を強調したり意識させたりすることはありませんが、ここで一緒に過ごすことが日本での特別な経験を学生達にもたらし、個々の理解を促すのだと思います。
大友:日本の若い学生にとっても、これは大変貴重な体験になります。MMCJでは初日からカルテットのグループが組まれます。各国の学生とアンサンブルするには、まず何がしかコミュニケーションが取れなければ練習もできない。座る場所はどうするか、どこから演奏を始めるか、最低限の言葉でコミュニケーションをとる力がなければ何も始められず、実際には音楽をつくっていくことができないのです。
日本の学生が留学する際に「音楽ができれば外国語はどうにかなるよ」と言語について軽んじられる風潮がありますが、実際の現場は甘くありません。日本人受講生の中には、MMCJで初めて外国人との交流を経験する受講生も多い。若いうちからこうした経験をするのはとても大事です。
■圧倒的な熱意をもつMMCJの講師陣
――今年も講師陣にはお二人のほか、ギルバートさんのお父様であるマイケルさん(芸術監督)やフランス国立リヨン管弦楽団のコンサートミストレスである妹のジェニファーさん(音楽監督、ヴァイオリン)、同オーケストラのアルトマン氏(チェロ)、東京都交響楽団の鈴木学氏(ヴィオラ)、フランス放送フィルのデスモン氏(ヴィオラ)、マーラー室内管のアルベローラ氏(クラリネット)など9名が参加されますね。
大友:毎年、終了時に学生にアンケートを取っています。多くの学生が他のアカデミーやセミナーの受講経験があるなかで「MMCJほど中身の濃い時間を過ごしたことがない」という意見をたくさん寄せてくれます。その理由は、MMCJが良くも悪くも私たち講師の「手作り」だからでしょう。授業時間の決まりはあってないようなもの(笑)。講師メンバーは17年前のスタート時から変わらず、みな寝食を忘れてコーチする熱心さには圧倒的なものがあります。先生たちのチームワークにも特別なものがあります。年に一度ここ横浜に集まり、同じ目的に向き合い、講師コンサートもやる。日本の皆様、横浜の皆様に彼らのガラ・コンサート(7/8)はぜひ聴いていただきたいですね。室内楽のグループとして特別な音がします。
ギルバート:先生たちの人柄や忍耐力はすごいですね。受講生一人一人へのきめ細かな対応は、他のセミナーとは比較できません。それがこのプロジェクトをユニークなものにしていると思います。
■コンサートで披露される熱い演奏、その聴きどころ
――受講生は7月12日に室内楽コンサート(プログラムは当日発表)、16・17日にオーケストラ・コンサートを行います。
ギルバート:このコースでは、特に室内楽の強化に努めます。どれだけ大きなオーケストラで演奏しようと、細部への集中力は小編成のカルテットと同じくらい求められるべきなのです。個性を生かしながら、チームの一員として音楽を奏でる。それは難しいことですがとても大切です。そのことをMMCJで学んでほしいですね。生き生きとした個性が集合してこそ、チームとなって鳴り響く音楽は素晴らしいものとなるのです。
大友:コンサートでは、室内楽に古典派のプログラムは必ず入ります。さらに近現代の作品を組み合わせる予定です。学生の演奏は2週間のグループとは思えないような仕上がりとなりますので、お客様にはぜひ期待していただきたいですね。
オーケストラではチャイコフスキーの交響曲第5番を取り上げます。若い頃に経験しておくべき交響曲です。さらに指揮者なしで室内楽のようにオーケストラでアンサンブルする試みをこの4年ほど続けています。結束力が示されるこの演奏は、毎年大きな反響を呼んでいますので、今回も期待していただきたいです。日本人作曲家の作品も演奏したいと考えていますので、ぜひ多くの方にご来場いただきたいです。
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